第16回ムビリオ/「アパートの鍵貸します」

本日第16回ムビリオバトル大阪を無事終えることが出来た。

moviliobattleosaka.wixsite.com

新型コロナウイルスが流行真っ最中なのでTwitterのスペース機能でちんまりと開催。再来月の次々回は平穏にオフライン開催できるといいなあ…と願うばかり。

発表作品はこちら↓

テーマ「しごと」

  1. アパートの鍵貸します
  2. サロメ
  3. ザ・コンサルタント

次回はテーマ「バトル」で9月に開催予定。

私が今回発表したのはこちら↓

アパートの鍵貸します」1960年当時のポスター。大胆な朱色がとてもカワイイ

<あらすじ>

主人公のバドはニューヨークの大企業に勤務する平社員。出世に向けて既婚の上司たちの歓心を買うため、頼まれるままに住んでいるアパートの鍵を明け渡しては女性との逢引きに使わせていた。そのことを重役のシェルドレイクに気づかれ、彼にも部屋を貸すようになったが、実はシェルドレイクの浮気相手はバズが片思いしているエレベーターガールのフランだった。ある日フランはバズのアパートでシェルドレイクの甘言が口先だけであったことを思い知らされ、彼が帰った後に衝動的に戸棚にあった睡眠薬を一気に飲んでしまう…

<コメント>

ビリー・ワイルダー監督の白黒映画で、1960年公開。以前ムビリオバトル大阪で発表した「ハート・オブ・ウーマン」のナンシー・メイヤーズ監督が激賞している記事を見て以来ずっと見てみたかったのと、最近購入した北村紗衣さんの著書*1でも紹介されていたので中古のDVDを購入して鑑賞してみた。

映画のトーンはコミカルな割に話としては結構深刻なことが起こっていて初めて見た時はびっくりしたが、鑑賞後は爽やかな気持ちになれる作品。

作中に出てくる単語の中で、重要なキーワードは「mensch(発音は「メンチ」みたいな感じ)」ではないだろうか。アメリカの砕けた英語で「立派な人間」というような意味らしい。主人公デクの隣人で、いきなり叩き起こされてヒロインのフランを治療した医師が、彼女をここまで傷つけたのはデクだと勘違いして「君もいい加減メンチになるべき」と忠告する。妻子ある身で社内の女性をとっかえひっかえするシェルドレイクに媚を売って生きていれば地位のあるお金持ちにはなれるだろうけど、たぶんメンチであることとは両立しない。「恋か仕事か」はフィクションに頻出する葛藤だけど、この映画はロマコメでありながら、どちらかというと「世渡りの上手い人間か、良い人間か」の葛藤であるところが大きいと思う。情熱的なラブシーンとか全然ないまま終わるし。

今月上旬に初めて鑑賞して、今日発表のために改めて観たのだけど、2度目だと本筋が分かっているぶんセリフ回しや小道具の使い方といったテクニカルな部分の巧みさがよくわかり「なんて映画が上手いんや」と舌を巻いた。最初の鑑賞よりむしろジンとして泣きそうになってしまったぐらい。大変おすすめ。